top of page

第15回 現在の活動

 黒沢さんは現在、石川県金沢市湯涌にある、創作の森という所の所長をされている。まず、この創作の森について、少し説明をすると、現在、創作の森が使用している建物は、もともと、昔金沢にあった白雲楼というホテルが経営する檀風苑(だんぷうえん)という文化施設であった。白雲楼は、自身も「東洋の真珠」と呼ばれるような豪華なホテルであったそうで、その豊富な資金力を元に作ったのが、この檀風苑であった。

 檀風苑は、温泉施設に来た人たちにとっての、一つの行楽の遊び場であり、観光博物館のような施設であった。加賀百万石の地域にある、昔からの美術工芸品から生活の日常品に至るまで、もろもろを集めて展示するというコンセプトの場所だったそうである。全館全てが、明治大正期の移築された建物で、素人目で見ても、莫大なお金がかかっているだろうことが分かる(登録有形文化材に指定されている建物が五つもあるそうである)。

 しかし、バブルが弾けたあおりでホテルは廃業に追い込まれ、営業停止になっていた檀風苑の施設を金沢市が引き取り、ものづくりの精神を受け継いだ、創作の森という施設にしたそうである。ここにはいろいろなものづくりを体験したり、実践したりすることのできる、藍工房、染織工房、スクリーン工房、版画工房がある。また、交流研修棟や、宿泊棟、ギャラリーなどもある。

 

 -今のお仕事は、美術館というところからは、ちょっと離れて。

 

 『はい。ここはいわゆる、工房、貸し工房だったり、今日はコンサートやってますけど、多目的スペースだったりする所ですが、今はこの施設の運営をしています。美術館の場合は、どうしてもイデアルなものを追っ掛けるというのが原則としてあるけれど、ここは、ない。

 むしろ、何か素晴らしいものを提供するというよりも、何か面白いことを起こしに来る人たちっていうか、自分がここで何かを作るとか、楽しむとか、今日もコンサートやっているから、歌い手の人もいるけれども、聞き手の人もいる、そこに何か相乗効果で良いことが起こったらいいよね、と思って来るわけじゃないですか。その良いことが起こったらいいよね・・・というのを手伝う仕事です。」

 

 -ある意味、美術館というものに関してあった葛藤のようなものは、ここではそんなに感じずに。

 

 「そんなに感じない、逆に言うと、もうちょっとイデアルなものを追っ掛ける人がいればいいのになと思うくらい。なんか、この段階で満足するのではなく、もっと追い求めたらいいのに、せっかくなんだからというように感じることのほうが、むしろ多いくらいかもです。」

 

 -どちらかというと、そういうものを押し上げていくような、そういうお仕事なんですか?

 

 「う〜ん、でもね、押し上げていきなさいとも思っていないところもある。ただ、願わくば、そうしたものを追っ掛けるような人と、そこまで追っ掛けませんっていう人と、それからもう一つ・・・初めてだし、分かんないけど、とにかくなんかちょっとやってみるねっていう人とが、同時にいるような場所になればいいと思ってますよね。

 どちらかというと、そのイデアルなタイプな人たちが、比較的少ないかなと思う。利用したり、来たりする人の中にね。Tシャツ一生懸命作って、自分のお店で売ってみるとか、いろいろやっている人たちもいるし、いろいろではあるんだけども、なんかいわゆる芸術性がどうのこうのというのではないんですよ。」

-今、どういうふうに、ここで活動されていきたいと思っているんですか。

 

 「自由な場所って、あんまり社会の中に少ないと思いませんか。案外少ないんですよね。会社であっても、学校であっても。大学とかは比較的自由だけど、自由って言ったって、やっぱり規制がありますよね。何時までに帰らなきゃいけないとか、いろいろあったりする。もちろん、ここも公共施設のはしくれですけれども、自由ったって限界ありますよね。ここもありますよ、規制は。さすがに自由にこの建物壊してくださいっていう訳にはいかない。

 そういう意味では、もちろん限界があるんだけど、でもとりかえしがつかないことが起こるわけでないならば、ここは創作の場、つまり創造の場なのであるから、自由に使ってくださいと、そのような『自由』に出会ってほしいと思っているんです。

 『え、いいんですか?』って言われると、(親指を立てながら満面の笑みで)『いいんですよ、いいんですよ』って。そういうことが割りと、好きなんです。もちろん、あんまりひどいことされて、『いいんですか』って言われても、困るんだけど、例えば、『芝生にキャタピラーで入っていいですか』ったら、『ちょっとそれは、芝生かわいそうだから、ちょっと別な方法でどうにかなんないかな』って言うけど。

 でも理由があれば、『どうしてもそのキャタピラーを付けた何々を、芝生の真ん中に持っていって、その状態で、何かパフォーマンスをして見せたいんです』と言われたら、ああそうか、じゃあ、どうやって芝生を養生しながら、そのキャタピラーを真ん中に持っていけるか考えようと。じゃあ板を敷いて、キャタピラーを走らせて、最後、一部どうしても芝生の上に乗っかるけど、そのくらいなら仕方ないんじゃない? とか、そういうふうに、可能な限りは、こちらも努力したいわけです。その『自由』のために。

 でも、そういう場所は少ないと思います、社会の中に。そういう場とか、空間とか時間帯に、出会う場所というようにありたいんですよ、この施設は。『え、知らなかった、そんなとこあったんだ、いいんだ、そんなことしてっ!』っていうようなね。自主規制を外す、自分の思い込みが勝手に作っていた限界を超える、っていうようなね。」

 

 -本当に、黒沢さんに相談したら、無茶なことでも、なんか真剣に考えてもらえそうですね。

 

 「少なくとも真剣に考えます。まあ物理的に不可能とか、今の現在の人類の技術と叡智をもって、無理なことは、それはそもそも無理なんですけどね。」

​前へ

金沢湯涌創作の森 敷地内にある門

​これも移築されたものである

次へ

bottom of page