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第2回 美術館は何のためにつくる

 それでは、まずは、美術館について伺っていこう。考えてみると、私にとって、美術館とは、芸術作品を鑑賞するための場所という漠然としたイメージであり、気が付けば、既にもうそこに存在しているものであった。あらためて、美術館って何のためにつくるのだろうか。

「美術館って、美術館のためにつくるわけじゃないですよね。金沢21世紀美術館であれば、金沢市が、金沢市のために、金沢市に何かいい影響があるようにということでつくりますよね。前橋市であってもそう。そうすると、美術館をつくったことによって、街のあらゆる場所がいろんな意味で、活性化してほしいわけです。

 

 美術館に人が来る、それで周辺の商店街にお金を落としました、観光地的に人がにぎわいました、周りの飲食店も洋品店も、みんな、お金が落ちて良かったですっていう考え方も、一つのかつての考え方なんだけれども、お金だけの問題ではないじゃないですか、美術館っていうのは。人と出会ったり、物と出会ったり、事件と出会ったりする場所なので。

 

 そうすると、その出会いを通して、自分の生活に還元されなきゃいけないと。自分の、例えば、町内会の活動が変わっていくとか、自分の学校の活動が変わっていくとか、会社の中でのクリエイティビティーが上がっていくとか、そういうことに結びついていくのでないと、やっぱり美術館つくって、はい、宝物置いてあります、保管してあります、ってだけにはいかないよね、っていうことも、(これまでの機能の)上に重ねられて、美術館の機能の中に入ってきた。」

  美術館の目標設定

「僕は、鍵になるものとして、美術館に来たいろんな人たちが、どう街の中で、自分の生活に対して働き掛ける、役に立っていくのかとか、いろんなつながりをつくれるのかっていうことを、重視しようとしているわけです。

 

 そのときに大事なのが、芸術性とはもう一方の、『幸せの問題』だと思っているんですよ、人間の。ただ、人の幸福感というのは、人によってまちまちなので、ただ幸せだっていう言葉、一言で済ますには、あまりにも乱暴過ぎちゃって、そういうわけにはいかないんですけどね。

 例えば、お金があれば幸せだって思っている人は、やっぱりたくさんいるから。自分には時間もない、お金もない、仕事も忙しい、子どものことも大変、でも本当は、あれも欲しかった、旅行も行きたいのに、でも今の給料では、到底そんな生活はできない、世の中こんなにしたのは、誰だ!とかさ(笑)、あるじゃないですか。

 やっぱり、せめてもう少し収入があればとかっていうのが、現実の本当の姿であることを知っていると、幸せはお金では買えないよとは、言えませんよ。言えないじゃないですか。だからね、そうすると、幸せ観だって、本当に人によってまちまちになっちゃうので、人の幸せのためにっていうような言葉は、全然言ったところで、そこから先の引き受け手の意味が違い過ぎて、そのためにこうしましょうっていうことは、一致しようがないんです。

 でもね、やっぱりそこに幸福論というものは、どこかに持っていなければ、もう一つの、つまり(美術館の)芸術性以外の目標設定って、じゃあ、どうやってできるのっていうことになっていっちゃう、もちろん経済性とかいろいろあるかもしれない、でも経済性が目標になるっていうのは、経済的に潤うことが、人を幸せにする、という前提があるからでしょ。

 だから景気はどうですかっていう話になるわけだよね、街の景気が良くなれば、それはいいことだ。というのは、そのことによって、そこに住んでいる人たちが幸せなはずだって、ある種の思い込みからそれは来ている。本当かどうか分からないけれども。

 だからもちろん、その芸術性というものも、確かにあるよ、美術館ですからね、ですけど、もう一方で、人の幸せっていうことも、もう一つの柱で持っていないと、美術館の活動はつくれないはずだし、将来に向かってどうやっていこうかという考え方もつくれないはずだし、と思っている。」

  

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