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第3回 美術館の変遷と歴史

  美術館の変遷

 

 自分が美術館によく行っていた、20年ほど前のイメージとしては、美術館というと、自分では見に行くことのできない素晴らしい作品や、珍しい物を借りて、一カ所に集めてくれる、それを見に行くための場所というイメージだった。ところが、シンポジウムで話されていた美術館は、私のイメージするものとは全然違うものだった。一体、美術館は今、どんな場所になっているのか。何がどう変化していっているのだろうか。黒沢さんが、美術館の変遷について説明してくださった。

 

 始まりはコレクション

 「美術館は、確かに、なかなか見ることのできないものを持ってきて見せるっていう、基本的にそういう場所でもありますよね。歴史的には、本来、美術館って、自分の所に何か、俗に言う宝物みたいなものとか、誰かが作り残していたものを集めていたり、美術館の本来、もともとが、王様や貴族だったりしたら、彼ら自身がコレクターだったから、世界中からいろんなものを集めたものが、市民革命以降、美術館とかパブリックに公開される場所になって、そこに置かれているコレクションをお見せするというのが、スタートだった。

 

 でも見せていく、そこに人を集める、でなんか、見た結果、仮に学ぶことができるみたいなことがあるとするなら、別にそのコレクションだけじゃなくてもいいと。まして、興行的な考え方が入ってくると、人寄せパンダ的な意味での、珍しい物を持ってきて見せる。興行的っていうと、言い方が悪いかもしれないけど、別な言い方をすれば、別な文明とか別の文化のものを持ってきてお見せすると、そのことで人だかりができる。というのが、第2段階目に現れてくるわけですよね。」

 

 コレクションからクリエーションの場へ

 

 「ところが、まだ持ってこれるものはいいんです。持ってこれないものも、あるわけですよ。もともと、ギリシャとか、エジプトとかのものだったら、本来、持ってこれるような大きさのものではないような石ころを、切断して持ってきて、美術館に置いたりはしてますけど、もともと、お寺にあったとか、神殿であったなんていうのは、本来移動ができるものではない、のみならず、実は、アーティスト、ものづくりをする人たちの活動の中で、移動が不可能なものを作り始めていた時期でもあるんです。だんだん、そういう人も増えて来たんですよ。60年代、70年代、80年代。大自然の中に、何かを置いていく。」

 

 -美術館の中ではなく、その環境にあるものだからこその。

 

 「そうです。写真でしかお見せできないというようなものも、結構増えてきたし、もっとパフォーマンスに近いような、一時的にしか存在しないものであった場合には、もうなくなってしまうので、ある日あるとき、突然何かを山のように積み上げてきました、でも、置きっぱなしにしとくと、風に飛ばされちゃうので、崩しておしまいです、っていうような作品だったら、もうそこに行くしかない、っていうことになりますよね。

 そういうリアリティーのほうを優先する作家の人たちっていうのが、結構、出てくるようになるんです。そうすると、オリジナルなものを見せようとしたときには、美術館で物を作っちゃうわけ。その代わり、展覧会がなくなったら、なくなっちゃう、みたいな考え方も、80年代の後半くらい、特に90年代になるといっぱい出てきて、そうすると、珍しい物を持ってきて見せるというよりは、その場で生み出していくっていう機能が、多々、優先される、ということはないかもしれないけど、そういうものも、十分に視野に入ってきて、実際そういう活動が、美術館に取り込まれるようになるんですね。

 (アーツ)前橋なんかの新しさというのは、それが必ずしも美術館の中で起こらなくてもいいというところ。それは、もう予感はされていたんです。90年代には。そういうことになっていくだろうというふうに、予感はしてるんですよ、関係者はね。でも実際に、それを本当に、形にしてきているなっていうのがありますね。」

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