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第4回 美術館の活動

  美術館の活動とは

 アーツ前橋で行われているようなプロジェクトは、私にとっては、すごく新しい美術館のあり方だなと思ったのだけれど、黒沢さんにとっては、当たり前の感覚のようだ。


 「もう、僕の感覚では、さもありなん、それで当然ってなりきっちゃっているところがあるんです。なぜそうなっていくかといったら、例えば、アーティストと一緒に作品の展示をするっていうときに、割りと、お金をふんだんに使える旧来の美術館は、展示をいわゆる業者さんに頼むんです。

 というのは、アーティスト1人で、重たい石が動かせるわけじゃなし、壁にでかい絵を掛けるのは、1人の力では掛けられないから、そういう展示作業とか、作品をやるのは、大抵、美術運送業者さんなんですよ。

 美術運送をする運送屋さんに、そのセクションがあって、そのセクションの人は、展示もやったりするんですね。重たいものを持ってきて、壁に掛けるとか、台を作って、その上に載せるとかっていうのは、そういう業者さんがやることも多いんだけれども、かつていた、茨城の水戸芸術館っていう所では、そんなにふんだんに予算がなかったこともあり、結構、学生のアルバイトと一緒にやったんです。簡単な作業であれば。もちろんけがするような、やばいことはやりませんけど。」

 

 -学生さんって美術系のですか。

 

 「あそこは茨城大学だったから、教育学部の美術の先生を専攻するような人たちは、もちろん絵を描いたりだとか、ものをつくったりとかするような人たちではあるんだけど、そういう所の学生さんたちに、結構手伝ってもらってやって。

 そうするとね、学生たちがすごく学ぶのです。勝手に。要は、やっぱり世界中渡り歩いている作家とかが来るわけじゃないですか。外国人のね。言葉は通じないんだけれども。だけど、その人がこうやって置いていくっていうふうに、作品をだーっと並べて、ほぼ並べ終わるようなときに、やっぱりこれやめて、こういうふうにするって並べ替えを始めたりする。

 それを手伝わされたりするわけですよね。でもね、そうするとやっぱり学生たちも、自分でものをつくったり、並べたりする人間だからなんだけど、なぜ、そういうふうにやり替えたのかっていうことが、理解できるんですよ。理解できるっていうか学ぶんですね、その態度みたいなものを。

 もちろんそれは、良いものとして学ぶこともできれば、反面教師として学んだって構わないんだけれども、でも、そこでなるほどこうやって展示するんだ、なるほど、って自分に何か蓄えていくわけです。なぜそう並べ替えたのか、そのほうが見えやすいからだとか、そのほうが伝わりやすいからだとか、そのほうがこういう印象を与えるからだっていうのは、並べ替える前後を知っていれば、体感的に分かりますよね。つまり作品とかいうものに関しても、それぞれが理解を深めるわけですよ。

 しかも、アーティストとも話をするでしょ。たまたま集まった学生同士も、それでつながっていくでしょ。美術館の人間ともつながるんです。じゃあ、学生たちだけでやっているかというと、そうじゃなくて、プロのその展示業者さんが脇にいたりするわけですね。運んできたりして。そういう人たちとも会話をしていったりする、そうすると、そういうもろもろの関係全体が、やっぱり美術館の活動だと思わざるを得ない。

 だからお客さんという人が、チケット買って見に来るだけだと、全部並べ終わったものを、ふんふんって、キャプションのくっついたものを、ふんふんって、見ているだけですけれども、キャプション一つにしたって、それを印刷したり、デザインしたりしている人がいる。それに対して、アイデアを投げ掛けている、美術館の人間もいる、あるいは別なデザイナーもいたりするっていう、その関係の全部で動き回っていろんなことが起こっているわけでしょ。展覧会1個とっても。

 だから、どの人も、それぞれが何らかの理由で関わってきた美術館とのつながりの中で、そこを経験するわけですよ。そのほうが、単純にチケットを買って作品を見ましたというよりは、経験がはるかに深いです。だとしたら、美術館って、もともと、そういう場所じゃないかと。

 もちろん旅行者が遠くからフランスから来ました、今日3時間ほどあるから、のぞいていきます、っていうパターンでは、それは実現できないかもしれないけれども、でも街の人たちにしてみれば、普段から近い場所なんだし、もっともっとそういうコミットメントができますよね。美術館で知り合った者同士、仲良くなって別な場所に行って、どうのこうのっていうのも、実際、起こっているしね。

 今日も、もともと、あそこの21世紀の美術館で、ボランティア活動で出会って、いろいろ行動を共にするようになった人たちが、ここ(金沢湯涌創作の森)の工房に来て、シルクスクリーンプリントやっているんだけど、そういうことの中で、人の人生って変化していったり、変わっていったり、自分で選ぶ道を作っていったりするわけでしょ。

 だったら、そういう機会を、たくさん提供できる、つくれるのは良いことだし、それをして、何かの活性化ということになるのではないかなと。つまり(来場者)人数ではなくて、ということだと思っているんです。」

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