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第16回目

​人の才能や力を引っ張り出すということ

人の才能や力を引っ張り出すということ

-教えるときっていうのは、その子の何かが、自由に出てくるように?

 「特別の魔法は掛けないけど(笑)、でも教室行くと、私もスイッチがピッと入る。特別な技術があるわけじゃない、全てうまくいくわけじゃないけども、まずはその子が、どんな表現をするかっていうのを見る。その子の状態を見ないと、それぞれ違うからね。技術は、ほとんど教えないわね。やってて、これでいいという所を、なるたけひと押しするのよね。様子を見ながらだけど、結果が出ると、本人も喜ぶのよね。そこをちょっとひと押しする。

 その子はほうって置いたら、こんな感じっていうところを、その子のそれをもっと良くするっていうの? だからそれに『ここをもうちょっとこうしたら』とか、『もうちょっとここきれいに塗ってみたら、もっと良くなるよ』って、頑張って、『いいのできたね』って。

 割に、りんごとかみかんとかは、描かせても面白くないのね。りんごは赤くて、棒がぴっとか、もう概念的になってるじゃない。だから、パイナップルとかは、あんまりないから、パイナップルを持ってきて、『みんなパイナップル食べてるでしょ、黄色い甘い、美味しいのが、外はこんなだよ』。『持ってくると重いよ、葉っぱがごちごちしてね、触ってごらん』みたいな感じで描かせると、それぞれに、そのときによって、いろいろの絵になる。」

-(子どもたちの作品の写真を見ながら)みんなしっかり見て描いている感じがしますね。同じパイナップルや魚でも、一人一人が違っていて、個性がありますね。
 

 「結構、力強いでしょ。これも、別にこれをこんなふうにしなさいとか、描きなさいとかは、言わないの。普通子どもたちって、みんなお魚を同じように描くじゃない。でも、実物を見せたら、また全然とらえ方が変わる。物ばっかり見せて描いているわけではないけどね。

 観察画って結構面白い。ただ見せないで描こうって言ったら、こうじゃないと思う。見せて観察させると、その子その子でいろんな描き方をする。深く見るっていうのもできるし。

 工作はいろんな素材、木だったり、紙だったり、いろいろなものに出会ってもらう。子どもっていうのは、未来がたくさんあるから、そういういろんな色のいろんな素材とかに触ったら、また違うかなと思って。」

-人の才能とか、その人の持っている力を引っ張り出すということは、どういうことなんでしょうか。

 「学生にも言っているんだけど、今していることでも、自分はもっとこっちのほうがしたいって思ったら、そういう電波をわーって出して、しゃべったりしていると、向こうから、こんな所でこんな人が探しているよとかなるから。動かないと駄目なのよね。

 私もシルクスクリーンをやりだして、ある程度まで行ったけど、それ以上のところにはなかなかいかないわけ。もうちょっと上がりたいと思ってたら、友達から、『金沢にもここでこういう先生がいるよ』って言われて。それでその人と会ったからこそ、ちゃんとしたものができるようになった。そういうめぐりあいって、サーカスみたいだなって。

 40過ぎになったときに、人生って無駄ないんだなって、いろんなやったことが結びついてくる、関係ないこととかなんかも、ちゃんと結びついてくるもんだなっていうのが、私の実感。

 だからまず、こうしたいと思ったら、『うわーっ!したいんじゃい!!』っていうのが大事かな。私、結構、駄目元で何かする人だから。取りあえず、こんなことしたいって言う。駄目元って思っているから、駄目でも、ダメージにならないのよ。じゃあ、他に聞こうかとか。」

-傷ついたり、へこんだりしないんですね。楽天的なんですね。

 「楽天家だね、すごくね。だから悲観主義な人の話聞くと、何で?って。聞いてみたらいいじゃん、やってみれば。でも2年間に1回くらい、胃が痛くなるようなことが人生ってあるのね。けどある時点から、そういうこともなくなって、しばらく怖かった、じゃあ今度はどんなすごいことがあるんだろうなって。そういう胃が痛くなるようなことは、もう10年以上も来てないかな。

 それは私が年を重ねたから、図太く、気丈夫にもなっているし、いろいろ積み上げてきてるから自信もあるし、今思うと、今の私ができることと、始めたときの私とは全然違うわけだから。」

-始めた頃と、今って何が違うと思いますか。教え方とか。

 「若い人は若い人で、良さがいっぱいあると思うのね、元気だし。今は、いろんなことを経験してるから、対処法、引き出しはいっぱいあるよね。最初は、お母さんが皆自分より年上だったから、妙な気負いがあるわけよね、物言うにしてもさ。なめられちゃいけないっていうか。今なんかもう、お母さんたちも娘よりまだ下、お母さんまでかわいいなって思って。

 お母さんたちにしても、小娘がぎゃあぎゃあ言っているのと、また説得力も違うから、その分は楽になったけど、やっぱり若い人っていうのは、きっともっと時代感覚があったりするから、若いから駄目っていうんじゃないと思うし、若い人も経験を積まないと、ここに来ないからね。

 私いろいろパフォーマンスとか見るの好きなの。もちろんすごい超ベテランがやっているのを観るのは楽しくて、この辺りでやっているのは、そんなにすごくはなかったりもするけども、やっぱり見てあげたことで、その人たちが成長するし、いいとこだけ取りでお金払っても次の世代は育たないからね、やっぱり、そういう年齢になってると思うのね、いろんな意味で、次の世代を育てたりとか、自分のできる範囲でね。」

-人の才能を引き出すとか引っ張り出すとかいうことについて、教える側としては、どうですか。

 「まず、その子の持っているもの自体を大切にしてる。一つの例なんだけど、なばた君(なばたとしたかさん)の『こびとづかん』って知ってる? 教え子なんだけど。なばた君は、あれしか書けないの、正直言って。だけど、あれを描くのはすごく好きでね、あれは上手に描ける。」

-教えているときから、あの小人を描いていた?

 「あんなの描いているから、他の先生にいつも怒られてた。『何だおまえは』みたいに言われてたけどね。私は専門学校でちょうどイラスト担当だったから、うちにも結構来てたりして。

 専門学校に教えに行って、初めて分かったんだけど、何でみんな就職就職って、やるんだろうって、私、自分自身は、卒業したらすぐ就職っていう家じゃなかったのね。就職活動ってしたことなかったから、『(面接で)お茶飲んでいいのかな、先生』とか聞かれたら、『知らない。出されたら飲んでいいんじゃないの』とか答えてたのね。

 私は、黒いもん着て、なんで嘘つきごっこするの、髪も急に黒くなっちゃってさ、かわいくないって。普段、かわいいの着ているのに、変なもん着ちゃってとか思って、(就職活動のことを)『嘘つきごっこ』って言っているんだけど。

 なばた君は、会社に勤めたら、つぶれんじゃないかなって思ったのよ。私の妹が絵描いてたんだけど、妹は、兄弟3人の中で、一番ペインティングが良かった。だけど、デザインの仕事しだしたら、『家帰ってまで筆持ちたくない』って言って、結局ペインティングは今、全然してなくって。人にもよりけりなのよ、それはね。それはそれでいいし、別に人生否定したりしないけど、でもなばた君も、逆に病気になっちゃったりするかなとか思ってね。

 『アルバイトして、それ描いて、いろいろ売り込んだりしたらいいんじゃない』って。でも、本当のところ、あそこまで行くと思わなかったね。うまかったから、絵本くらいは出せるだろうとは思ってたけどね。彼も30近くまでアルバイトしてたから、逆に、自分が世間知らずで、口からぽっと言ったことが、これで良かったのかなとか思ったこともあるんだけどね。

 なばた君は、30くらいまでギャラリーに勤めたりとかね、描いてときどき個展したりとか。彼はあちこちやたらもっていかないで、すごいリサーチして、出版社を一発で決めたの。また運が良かったのは、プロデューサーが良かったのね。展開の仕方、小人の捕まえ方とか、小人の育て方とかね。

 私の教室でも、あの小人がいるって信じている子がいるし、生徒が『先生、小人描いてもいい?』って描いたのを見ると、白雪姫の七人の小人じゃなくて、ああ、あれだったんだ(笑)って。今ちょうどデビューして、今年が10周年っていうことだけどね。」

-やっぱり、最初、寺尾さんが認めてくださって、否定しなかったから、そういう方向に行けたんでしょうか。

 「運良くね。私も、慌てることないなと思ってね。」

 


 寺尾ユリ子さん、楽しいお話をありがとうございました!

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