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第12回目上条さんと寺尾さん①

​大胆な二人

 お話を伺っていて面白かったのが、上条陽子さんと寺尾さんのコンビネーションです。寺尾さんのお話を伺っていると、上条さんには、時に周囲を驚かせてしまうような、大胆なところがおありになるような気がします。

 寺尾さんには、そんな上条さんを見守り、必要なときにはさっと手助けするというようなところがあって、そんなお二人の中東の地での道中を思い浮かべると、失礼ながらくすっと笑ってしまうのです。

ワークショップ中の子どもたちと

後列左端から上条さんと寺尾さん

大胆な二人

 ガザ編でもお伝えしたように、ガザでは、身の安全を確保するために、外を歩くときはガイド付き、移動は車、どこかに移動するたびに日本大使館に連絡を入れ、用が済んでホテルに戻れば、ホテルから一歩も出ないよう、念を押されていたそうです。でも、上条さんと寺尾さんは、なんとその禁を破ったことがあるというのです。

 「実は、ガザのホテルを1回だけ内緒で出たんだけどね、2人で。もともと20年前くらいに、上条さんが個展をしたときに知り合った人が、出発前、日本にいるときに、今度ガザ行くからっていうんで、ネットで連絡が取れて、その人が1回ホテルに来てくれたの。

 その方はガザに住んでいる画家の人。といっても、画家で生計は立てられないけど。上条さんが最初会ったときは、青年だったって言ってた。それが20年たったから、家族もいるし、子どももいるし、立派な大人になって、今ではガザで絵を描く仲間の指導者になっている。」

-ガザにいる難民の人たちの中にも、絵を描く人たちの仲間があるんですね。

 「やっぱり、絵を描くのって、ある種の人にしてみたら、生きるのと一緒なのよね。食べたり、水を飲んだり、寝たりとかと一緒みたいな。それをしなかったらすごい苦しくなる。それを職業にするかどうか、成り立つかどうかは別としてね。

 ガザの人たちは、新しい自分たちの表現を研究したり、いろいろ意見を出し合ったりしてて、この前、湯涌創作の森でやった展示でも、子どもたちの作品以外に、もらったカタログをコピーしたものを飾って、その人たちの作品を紹介したの。」

-ガザ滞在中に、その方の所へ会いに行かれた。

 「その人は、『こういう仲間たちいるから、ぜひ上条さん来てください、おいでおいで、大丈夫だよ』って言うし、ホテルから歩いていける所にその一角があるんで、まあ、ちゃかちゃかと歩いて行って。ちゃかちゃかと帰ってきて、私たちどこにも行ってません、みたいな顔してたんだけどね。」

-それは夜に。

「夕方、時間は7時とかそんなんだけど、まあ日が長いから、明るかった。」

-じゃあ、そんなに危険なこともなく。

「私たちが行ったときは、別に危険ではなかった。ただ、いつどうなるかが分からない。保証はないのよね。だからその後で(2014年)1月にがちゃがちゃに攻撃されて、テレビで見てもぐちゃぐちゃになっていたしね。」

 「イスラエルでは、観光したベツレヘムとはまた反対方向の所に、アートセンターみたいのがあって、昔そこで、針生さんっていう日本で第一人者だった美術評論家がコーディネートをして、上条さんが個展とグループ展をしたのね。

 上条さんが、その展覧会をした所に行きたいって言うから、2人で行ったのよ。でも上条さんも、その場所はうろ覚えで。お昼食べた所で聞いたときは分からなくって、だって情報が、前、展覧会やって、詳しい名前も分からないアートセンター、っていうそれだけ。

 でも、その後たまたまお店に入って聞いたら、そこの人が知ってたのね、それでタクシーを呼んでくれて、そこに連れてってもらって、そこのスタッフに説明して、そしたら、そのグループ展のときの資料がちゃんと出てきて、『これでしょう?』って。

 行けたの。奇跡みたい。こんな2人がさ、べらべら歩いて、『すみません、アートセンターどこですか』ってねえ。私、奇跡だと思った。よっぽど運が良かった。ちょうどアートセンターでは入れ替えか何かで、展覧会も何もしてなかったんだけど、そこのスタッフも、よくしてくださって、お茶も出してくれてね。

 そんな感じで、私もどっちかっていうと、そういうところあるし、上条さんも、どうでもいいみたいなさ、訳分かんないところがある。上条さんも、私といると結構楽だと思うのよ。ああだこうだ、どうたらこうたら言わないし。『行こう』って言ったら、『いいよ』って行くからね。」

-その前にガザに行って、パレスチナの人たちが大変な目に遭ったりしているのを見ているわけじゃないですか。そうすると、人によってはイスラエルに出たときに、あんなみんなをひどい目に遭わせて、みたいに思う人もいるんじゃないかなと思うのですが。

 「上条さんは思ってる。入植してきて、追い出してって。」

-それでもアートセンターに行ったりっていうのは、イスラエルの人たちとの交流なわけですよね。

 「そうだよね、本当だね。」

-それをやっているっていうのが、何となくいいな、って思ったんですけど。

 「そうだね、本当だね。でも上条さんは、個人は攻撃しないけど、政治的なのはあるわね。私は、それもあんまり考えられないバカちゃんなんだけど(笑)。」

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