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第14回目

教えるって何だろう

教え始めたきっかけ

 

 「今でも覚えているんだけど、私は、高校生の17のときに、東京の女子美術大学の付属に通ってて、あるとき、家で学校の夏休みの絵を描く宿題をやっていたの。そしたら絵を描いていて、すごくいい感じになったのね。すごい喜びを味わったの。そのとき漠然と、そういうのを他の人にも味わわせてあげたいな、こういうことを伝えられたらいいなと思って、そういう人になろうって思ったの。

 かといって、早起きして毎日学校行ったりするのはあんまり好きじゃないから、学校の先生、中学とか高校とかの先生にはならなかったんだけど、きっとそれはプラスになることだろうと思って、教面(教員免許)は取っておいた。

 すぐ教え始めたわけじゃないんだけど、結婚して子どもができて、毎日子どもを散歩連れてって、ご飯食べさせて、ちっちゃい社会の中で一日が終わるわけね。なんかすごい精神的におかしくなりそうになっちゃって。私は何でも良かったの、パートでもなんでも。何でもいい、したい、子どもの顔見ない日があってもいいと思って。

 そしたら、主人に『あなたならではの、そういうことならしてもいい』って言われて、ああそうか、そうしたらこれしかない、他に計算できるわけでもなし、きれいな字を書けるわけでもないしね、1人でも2人でも(生徒が)いたらいいなと思って。

 あのときは、結構私もエンジンがあって、近くの集会所に行って、『こういうことしたいんですけど、貸してくれますか』って言ったら、『生徒いるんですか』って聞かれて、『貸してくれたら生徒集めます』って。来るかどうか分からないけど、ちらし配ったら、4人くらい来たのかな、それがスタートで。

 そして週1回の何時間で終わるのも、もったいないなって思って、『どうですか』ってまた違う所に行って、それで週に2日になって、そこまでは自分で動いた。それからは、そのうち、引っ越すんであっちのほうへ行く、あっちのほうでもやってくれませんかとかって広がっていって。」

教えることによって自分の能力や作品も磨かれていった

 「いくら美大出たからって、別に鼻高々でもないし、下手くそだし、この子たちに教える以上、なんか誇れる人にならなくちゃいけないなと思って、じゃあ誇れる表現方法は何かなって。

 私、ペインティングって描くのは好きなんだけど、そんな上手じゃないのね。じゃあ、どんなもので表現したら、一番私の表現がすとんと出るのかなと思って、これでもないな、あれでもないなって、あれこれやっているうちに、シルクスクリーンっていう版画の技術が、一番私に向いているわと思って、表現はそれが一番多いのね。

 それから、シルクスクリーンも頑張ろうと思って、子どもたちに誇れる人にならなくちゃいけないと思って(笑)、そしたらすごく余計楽しくなって、教えることもやりつつも、自分に一番合ってたからやってたら、それなりに画歴もできて、専門学校で教えてくれませんかとかいう話も来たりして。

 また教えるのも、変な度胸があって、じゃあシルクスクリーンだけじゃなくって、『銅版画教えてみませんか』って言われて、やったことはあるのよ。やったことあるけど、忘れてるし、『ああやります』って言ってから、本見て、わーってやって・・・。

 そういう所があるのね。言われたら、そこへ向かって、うっとやって、自分を上げていくというか、言われなかったら、ただだらーっとしているんだけど、それでなんだらかんだらやりながら、きょうまで来ましたっていう。」

-それでちゃんと何とかなるところがすごいです(笑)。

教えることって何だろう

-絵とか、工作を教えるって、どういうことなんでしょうか。

 「私がするのは、教えるっていうよりも、そういう機会、場所、やれる気分にさせて、何かを表現させるのに、いい状態にさせてあげるのが、仕事だと思っている。表現っていうのは自由だから、はっきり言って、こうやっちゃいけないとかは、ないのよね。

 例えば、私があなたの顔を書いて、そっくりに描くっていうのも一つの方法なんですよ。でも、そっくりに描くだけじゃないっていうのもあるのよね。例えば、ぞうさんはねずみ色だけど、地味だな、ぞうさん、もっとピンクのほうが嬉しいんじゃないかなって、子どもが思ったとしますよね、それができるのが表現なのよね。

 

 だから、そういうイマジネーションっていうの? いろいろな考え方ができるっていうふうになったらいいと思う。うちに来る子たちも、美大予備軍を作っているわけじゃないから、自由に物を考える頭を作るっていうのかしら、自分のことを表現できる、そんな時間が、キラキラ輝いたいい時間であったらいいなと私は思って、至らないけどそうなるように努力をしている。

 何かできたっていう達成感とか、その間の集中している楽しさ、工作にしても、なんかこんなの作れる、作ろうっていって、やってるときって、ある種の独特の、テレビ見るような楽しさじゃない、受け身じゃない楽しさ、心の高揚みたいなものがあると思うのね。

 そういうことを、時々味わうっていうのは、大切かなって思う。人間って、何でも絵じゃなくていいと思うんだけど、あなたはあなた(インタビュアー)でやっぱり表現したいんだと思うのね。文章とか、いろんな人のことを人に伝えたいとか、これも一つの表現だと思うのよね。みんな、人間って何かしら自分の表現方法を持って、表現したい動物なんじゃないかな。

 私にとって、教えるっていうとちょっとニュアンスが違うのね。じゃあどんな言葉で言ったらいいんだろうって思うんだけど、私の知っていることでこれをしたら、相手が喜んでくれて、楽しかったみたいになるのを味わうのが好きなのね。私はそれが一番好き。それで相手がすごくいい時間を過ごしているなと感じられるのがね。

 特にカルチャースクールは、楽しくなくっちゃって思ってるのね。その人がキラキラした時間を過ごせるのが一番で、そういう時間を提供することだなと思っていて、その人が、いい時間を過ごしているなっていうのを味わうのが好きね。

 学校では厳しいこともするよ、楽しい楽しいで卒業させちゃったら、その子のためにならないから、仕込まないといけない。でも学校は学校で、また好きなんだけどね。学生は学生で、またニュアンスは違うけど、やっぱり達成感のある楽しさがあったらいいなと思って。」

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